未病・予防医学共同研究講座内に設置していた食品臨床評価学研究室を「臨床研究評価室」と名称変更いたしました(2022年4月1日)
広島県の提案した「広島バイオクラスター構想」が文部科学省の知的クラスター創成事業に採択され、広島大学における幾つかの研究チームの参加が決まりました。その際、杉山政則教授の提案した「植物乳酸菌および麹菌の保健機能研究と機能食品への応用」も選定され、杉山研究プロジェクトとして平成15~18年度まで推進されました。終了と同時に、文部科学省の大型事業である「都市エリア産学連携促進事業(発展型)」にも採択され、基礎研究の成果を実用化するために産学連携研究を推進しました。これらの事業を通じて得られた研究成果(特許技術、ノウハウ技術および植物乳酸菌ライブラリーの構築)については、広島地域産業を発展させるべく食品系企業に提供され、10種類を超える製品が市場に登場しました。
一方、平成27(2015)年4月から「機能性表示食品制度」がスタートしました。この制度は国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を販売前に消費者庁長官に届け出れば、商品に保健機能性を表示することができる制度です。特定保健用食品(トクホ)と違って国が審査を行なわないため、事業者は自らの責任で科学的エビデンスに基づいて適正な表示を行うことになります。
以上の背景から、今後は「食品の保健機能性を臨床評価するシステムの設置が必要であろう」との考えの下、広島大学醗酵工学科出身者有志の支援により、平成19年4月から3年間の設置期限付きで、霞キャンパス内に寄附講座『臨床評価・分子栄養科学講座』が杉山教授(医学部総合薬学科:のちに薬学部として独立)の尽力で設置されました。教員スタッフとして東川史子寄附講座准教授および野田正文寄附講座助教が就任、食品や健康サプリメントの保健機能性の検証を希望する民間企業との間で共同研究契約を交わし、食品の臨床研究を実施してきました。
寄附講座の設置期限終了をもって研究活動を停止させないために、杉山教授の研究室(当時薬学部)が引き継ぎ、その後、杉山教授の定年退任 (2016年3月) と同時に設置された「未病・予防医学共同研究講座」が、機能性食品やサプリメントの開発に意欲的な民間企業との共同研究を推進する機関として、科学的エビデンスを検証するために食品臨床研究を行って参りました。
健康食品における市場規模は2020年度が8,659億9,000万円、2021年度は8,880億3,000万円と推計されています(矢野経済研究所報告)。今や1兆円の市場規模に拡大する一方で、科学的な根拠の乏しい商品や誤った情報が一人歩きするなどの事象も報告されています。食品による健康被害を食い止めるためにも食品の臨床研究を大学で行うことは大変意義深く、広島地域の食品製造企業は当然ながら、「機能性表示食品」や「特定保健用食品」の申請を予定する国内企業の皆様にも広く貢献することができたと考えております。実際、これまでは企業からの依頼があれば、いかなる試験食でもできる限り引き受け、既に40件を超える食品臨床研究の実績があり、被験者ボランティアの登録者数は5,200名を超えています。
これまで進めてきた研究室における乳酸菌や麹菌の研究成果から、これらの菌体成分や産生する化合物が様々な種類の疾病の予防改善に有効であることが、だんだんと明らかになってきました。そこで、2022年度にリニューアルした臨床研究評価室では、これらプロバイオティクスを利用した「未病改善」と「予防医学」のための食品臨床研究に加えて、医薬品開発を最終目標とした医師主導型の臨床研究も支援しております。2022年度から、大学教員が実施する食品臨床研究における実施責任者は、当講座の野田正文特任准教授が中心となり、ナランダライ特任講師とともに「未病・予防医学共同研究講座」の「健康長寿社会の実現」を目指すための研究課題に沿った、乳酸菌、麹菌、薬用植物 (生薬) などを活用した発酵食素材の保健機能性を検証するための臨床研究を、腸内細菌叢の解析を交えながら実施していきたいと考えております。
これまでご協力くださったボランティアの皆様におかれましては、引き続きご協力くださいますと幸甚です。どうぞ宜しくお願い申し上げます。